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読書感想文『掟上今日子の備忘録』ー忘却探偵に思いを寄せて

                              

学生の頃、西尾維新さんの本をよく読みました。物語は面白いし、登場人物も魅力的。でも何よりも惹かれたのは、その言葉の使い方でした。

 

独特の言い回し、奇抜な表現。豊富な語彙力に裏打ちされ、言葉は圧力を持ち、読むものをその世界に飲み込んでいくようだと感じたのを覚えています。

 

そんな西尾節は、本作では少し控えめ。ライトノベル色を薄め、万人に受け入れられやすいミステリー作品という印象です。ガッキーこと新垣結衣さん主演でドラマ化もされました。なお,ぼくの流行り廃りの時間の流れは世間よりも大幅に遅れております。ご了承ください。

 

隠館厄介(かくしだて やくすけ)の語る物語の主人公は、掟上今日子(おきてがみ きょうこ)。置手紙探偵事務所所長で、記憶が一日しか持たないという特異な体質の持ち主。その通り名は「最速の探偵」または「忘却探偵」。記憶が一日しか持たないというのは,正確には,睡眠をとることで前回の睡眠までの短期記憶を失うというものです。本作ではその原因や経緯には触れられていませんが,今後続編で明らかになるのでしょうか。

 

記憶を失う。数日前や数時間前に起こったことを思い出せないということ。そういう経験のある人,そういう病を患っている人は,少なからず実際に存在します。この本の主人公,掟上今日子のように。

 

自分が生きている「いま」がそれまでの過去と繋がっていないこと。未来の自分が「今日」を思い出せない可能性があること。それがどれだけ不安で,辛いことか。周囲の人を苦しめ,悩ませていることか。

 

いまを生きろとはよくいったものです。しかし,「いま」が「いまだけ」のものでしかなかったとしたら。

 

時間は有限であり,時の流れは残酷です。人の人生は儚い。その中で,各々は人と出会い,言葉を交わし,多くの体験をしながら,それを経験として積み重ね,人格や知識を形成していくのでしょう。 

 

子どもも2歳にもなると,ある程度のことを記憶できるようになっているようです。保育園であったこと,今日食べたもの,友達の顔や名前。色々なことを教えてくれるようになりました。

 

しかし,いずれは色々なことを忘れてしまうのでしょう。たとえば今日,家族で遊びに行ったことも。

 

それでも,子どもがぼくたちに見せてくれた笑顔は本物です。もしかしたら,子どもの中に何かが経験として蓄積されているのかもしれませんが,別にそれすらも大した問題ではありません。

だって,ぼくたちは楽しかったですし。だから,ぼくたちは来週も再来週も,子どもを連れて遊びに行くでしょう。「いま」をただひたすら楽しむために。

 

なんだかデリケートな話をした気もしますが,掟上今日子の備忘録はテンポよく進むストーリーとリズミカルな言葉の織り成すエンターテイメントです。ご堪能ください。

 

ちなみにぼくは,なぜこの本を手に取ったのかを思い出せずにさっきからずっと悩んでいます。

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