ぱぱハート

2児のパパの子育て日記。

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車とお別れした日

かれこれ、いまから6年ほど前のお話です。

 

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その日、ぼくはいつもどおり、キーについているボタンを押して車のドアを解錠しました。ドアを開けるとにあるのは車に特有の匂いと、むわっとした空気。でもその日は、その生温かさすら心地よかった。

シートベルトをして、エンジンをかけました。助手席には、数日前に結んだ売買契約書が無造作に置かれていました。その日、ぼくは車を手離しました。

 

キーにつけていたストラップも、バックミラーにかけていたお守りも、既に外してありました。

サイドミラーを開き、バックミラーの角度を調整。ギアをドライブに入れ、サイドブレーキを降ろします。

もう、この車のエンジンをかけることも、サイドブレーキを降ろすこともないんだな。そんな思いが頭を過ぎりました。

ハンドルの感触を両手で確かめながら、車を動かします。AT車なのでブレーキから足を離せばアクセルを踏まずとも進むのですが、その日は何だかゆっくりしか進みません。

車も、最後だってわかっていたのかな。

 

いつもなら、オーディオに繋いだiPodで音楽を聴くところですが、その日は控えました。車のエンジン音を、聞いていたい気分でした。

スピードも必要以上には出しません。追い越し車線に移動することもしません。最後のドライブを、少しでも長く楽しもうと。

 

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たくさんの人を乗せました。たくさんの場所に行きました。あの車がなければ行けなかった場所、あの車がなければ買えなかったもの、その数は計り知れません。

初めてあの車に乗ったときの高揚感も、ついこの間のことのように思い出されます。

何ヶ月も洗車しなかったり、車検代を少しでも安く済ませようとしたりしました。電柱に擦ったこともありました。ぼくは、あの車にとって決していい所有者ではなかったと思います。

 

特別な車ではありません。どこにでもある大衆車です。安く譲ってもらった中古車です。ぼくはクルマにこだわりなどはなく、交通用具の一つであり、動けば何でもいいとすら思っていました。ぼくはそう思っていると、思っていました。

 

それでも、ぼくはあの車のことが好きでした。

 

車の中で、たくさんの話をしました。色々な音楽を聞きました。車のフロントガラスを通して、多くの景色を見ました。

余りにも多くの思い出を、あの車と作り過ぎました。手離すのが、あんなに辛いことだとは思いませんでした。

 

ごめんなさい。転居先は駐車場の値段が高く、車を維持し続けるのは難しいんです。ぼくにもう少し、稼ぎがあれば。そうすれば、君を連れて行ってあげられたのに。ごめんなさい。

車がなくて、ぼくは本当に大丈夫だろうか。小さい子どもだっているのに。やっぱり手離さなければよかったと、後悔するんじゃないだろうか。そんな思いも抱きました。でも、もう引き返すことは許されません。

 

 

中古車屋さんに車を入れ、エンジンを止めます。最後のドライブが終わりました。もう,この車でどこかに出掛けることはありません。ドアを開いて車を降り、鍵をかけます。

店内で車のキーを渡し、書類を確認してもらいました。そして店の外に出たとき、車はもうそこにはありませんでした。余りにも呆気ない別れでした。

しかし。

 

帰り道、店の裏側にある、たくさんの車が並べられた車置き場とでもいうような敷地を、たまたま通りかかりました。探すまでもありません。いつもと同じ佇まい。ぼくの車はすぐに見つかりました。

 

いや、かつてぼくのものだった車です。

お別れです。もう、あの車に乗ることはできません。姿をもう一度見てしまったことで、すでに消化したはずの寂しさが、再び溢れ出てきました。

さようなら。本当にお世話になりました。どうか、いい人に買われてください。どうか、大切にしてもらってください。これからもたくさんの人を乗せて、たくさんの場所に行ってください。くれぐれも事故には気をつけて。

家に戻ると、車の停まっていない駐車場が目に入りました。ポッカリ空いたそのスペースは、まるでぼくの心の中に空いた穴のようでした。

 

あれから6年経ちました。我が家には新しい車がおり,大活躍をしています。

当時ぼくが持っていた車はモデルチェンジをしており,まったく同じ型の車を見かけることは少なくなりました。

 

長男が車を好きになったのは、車を売却した2ヶ月後でした。おそらく彼には、かつて我が家にあった車の記憶はないでしょう。チャイルドシートの感触も、あの車で出かけた思い出も。

 

あの車は、今頃どうしているでしょうか。売った時点では,まだ状態は良かったと思うのですが。いい人に買われて,どこかを走っているでしょうか。それとも,とっくに廃車になってしまっているのでしょうか。

 

その車には一度も乗ったことのない次男とトミカで遊びながら,昔のことに思いを馳せました。

 

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