絵本『ゆびたこ』 絵本で指しゃぶりはやめられるのか
子どものしつけの方法に正解はあるのでしょうか。
子どもがいけないことをしているとき,どのように伝えるべきなのか。親になって数年経ちますが,いまだにこの問題には頭を抱えています。
子どもの性格や親の考え方にもよるので,その方法は家庭によって千差万別。
優しく諭す,怒鳴る,罰を与える。どれも正解だし,どれも完璧ではない。しつけもコミュニケーションである以上,万能な方法やマニュアルなんて通用しないんでしょうね。
我が家の子どもたちが二人とも苦しんだ抜けきらない癖が,指しゃぶりです。
眠いとき、精神的に不安定なとき,疲れているとき。無意識に,指が口に吸い寄せられ,文字通りちゅっちゅっちゅっと吸われていました。選ばれるのは、いつも決まって左手の親指。これはなぜか二人とも同じ指でした。
乳児のときの記憶が喚起されるのか、おっぱいへの無意識の執着なのか。左手の親指は,子どもたちの精神を安定させるという役目を担ってきました。
しかし、いつまでも親指に頼るわけにもいきません。
親指には固いたこができていますし,衛生的にも問題があります。さらに,指を吸い続けると前歯の歯並びにも影響が出るんだとか。中毒と化している強い親指依存。我々は子どもたちを指しゃぶりの誘惑から脱却させなければいけません。No more 指しゃぶり。ダメ,ゼッタイ!
と意気込んではみたものの,ここからの道のりが長い。
まずは,なぜ指を吸ってはいけないのかを子どもたちに説明します。ばいきんが口に入るんだよ。このまま吸い続ければ指のたこから血が出たり,前歯に隙間ができたりするんだよ,と。
しかし,頭で理解できていても,子どもたちはその誘惑からは抜け出せません。遠い未来に訪れる不幸よりも,いま目の前にある欲求が勝る。うん,その気持ちはよくわかるけども。
次に,いくつかの物理的な対策を講じます。指に包帯を巻き、ばんそうこうを貼りました。
ですが,そんなものは何の役目も果たせません。指を吸いながら眠りにつきたい子どもたちは、布団の中で容易くそれらを排除してしまいました。
指にわさびを塗る,という方法もあるそうですが,そんな状態で布団に入るわけにもいかないのでこれは断念。
ここはやはり、指しゃぶりをやめるんだという強い意志を持ち、子どもたち自ら脱却してもらう必要があります。親指ドランカーからの更正は、まず指を吸うのを止めるんだという気持ちの醸成から始めるのが相当です。
そんな我が子に読ませたのがこの絵本です。
ゆびたこ
価格:1,430円 |
- 作 者 くせ さなえ
- 出版社 ポプラ社
- 出版年 2013年
- ページ数 32ページ
- 対象年齢 3~5歳
指しゃぶりをやめられない女の子の親指にできた「たこ」。ある日その「たこ」がしゃべり始め、自らの成長のため、さらに指しゃぶりをすることを要求し始めるのです。
ゆびたこのビジュアルは妙にリアルで生々しいもの。その口から発せられる関西弁も不快で不気味に感じられます。しかもそれがさらに成長しようとしている。女の子の想像する成長後のゆびたこの姿はとても恐ろしく,まさに悲劇です。
主人公の女の子は、このゆびたこが嫌で指しゃぶりをやめることに成功します。しかしゆびたこは、自分を吸いたい子はたくさんいる、と捨て台詞を吐き消えていきます。
ただ、どうなんでしょうね。
子どものしつけのために「怖い」という感情を利用するのは、少し違うかなという気もしています。
例えば、子どもが悪いことをしたときに,鬼から電話がかかってくるアプリが少し前に流行りました。
そのアプリが悪だとは思いません。ただ,そのアプリはうまく使わなければ,子どもが悪いことをするのをやめたとしても、ただ「怖い」からやめたことにしかなりません。
鬼から電話がかかってくるのが嫌だから、これはしない。
ゆびたこが怖いから、指しゃぶりをやめる。
これでは、子どもはきちんと納得して悪いことをやめているわけではありません。いつか、隠れて悪いことをしてしまう可能性もあるのではないでしょうか。
こういった方法に頼るのであれば,きちんと親がアフターフォローをしないと根本的な解決にはなりません。そのために,子どもに「伝える」努力を怠ることはできません。
結局のところ,しつけに近道はないのでしょうね。
子どもたちのリアクション
最初はゆびたこのセリフをネチネチと,できる限り気持ち悪く感じられるように読んでいました。
お世辞にもかわいいと言えないゆびたこのルックス。不気味な関西弁。
ゆびたこは主人公が一人になったときにしか話しかけてこない、という設定も若干のホラー要素を醸し出しており、子どもたちが恐怖心を抱くには十分でした。
最初のうちこそ,ゆびたこが怖いからという理由で指吸いを何日間かは止められていたものの,いつしか恐怖よりも吸いたい欲が勝ったようで,親指は元のポジションに戻りちゅっちゅっちゅっとやっています。
そうしているうちに子どもはゆびたこの不気味さにも慣れ,また読んでいるこちらも怖がる子どもを見て「これは違うな」なんて思っていたものですから,結局のところ指しゃぶりへの特効薬にはなりませんでした。
ただ,何度も言い続けていた指しゃぶりがもたらす悪影響についてはちゃんと伝わっていたようで,長男は6歳のときに自分で指しゃぶりを止めることができました。
眠っている3歳の次男の口の中には,今夜もすっぽりと親指が入り込んでいますが。
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