サッカーを観ながらTwitterなんかを眺めていると、テレビの解説を遥かに上回るレベルで戦術を語っている方をよく見かけます。
テレビの解説者は、誰にでもわかるようにと解説をされているので単純に比較するべきではないとは思いますが、所謂「プロ」ではない方が語る戦術の話は、まるで専門家の講演のように詳細で内容が濃く、観ている試合の理解度をグッと上げてくれます。
Jリーグが発足したのは、ぼくが小学生のときでした。父の仕事の影響もあり、我が家の中心には常にサッカーがありました。それなりの回数、スタジアムに足を運び、多くの試合を目にしてきました。ヨーロッパにサッカーを観に出かけたこともありました。自分はそれなりには、サッカーに詳しい方だと自負していました。
でも、全然なんですよね。前述の戦術に詳しい方々に比べたら、ぼくは雰囲気でしかサッカーを観ていないのではないかとすら思えてきます。
サッカーの楽しみなんて人それぞれです。「すごい!」、「早い!」、「強い!」、「上手い!」、「やったー!!」の5つのワードさえ使えれば、サッカー観戦は十分楽しむことができます。ただ、それだけでは物足りない方、もっと深くピッチの上で起こっていることを知りたい方。一緒に勉強してみませんか。
アナリシス・アイ
- 作 者 らいかーると
- 出版社 小学館新書
- 出版年 2019年
著者のらいかーるとさんは、「サッカーの面白い戦術を心がけます」というサイトを運営しているブロガーで、サッカーの指導者をされている方です。先述の「戦術に超詳しいTwitterアカウントの方」の一人でもあります。
らいかーるとさんのブログには、主に実際の試合を振り返りながら分析された記事が掲載されています。記事は多くが会話形式で書かれているのですが、これが一度読むとクセになるし、その上スッと内容が頭に入ってきやすい不思議な文体です。ぜひ一度読んでみてください。
そんな実際の試合を題材にしたブログに対して、本書はもっと基本的なサッカーの見方が記されています。
ピッチ上の事象がなぜ起こったのか。それは偶発的なものだったのか、それとも狙いどおりだったのか。チーム内でどのような約束事がされているのか。思惑通りに試合を進めているのは自チームなのか相手チームなのか。どうしてその得点は決まったのか。なぜ監督はその選手を交代させたのか。チームの意図を理解することで見えてくることがあります。
本書には、サッカーを観るときにどの点に注目すれば、チームの狙いが見えてくるかが詳細に書かれています。
現代のサッカーではピッチを縦に5分割した「レーン」に注目することが基本とされています。「右サイド」をさらにインサイドとアウトサイドに分けて見えるようになると、配置や動きに込められた意図が透けて見えてきます。
ピッチを自チームのゴール前、中央、相手チームのゴール前に3分割し、それぞれのゾーンでのプレイにおいて何に着目すればよいかが具体的に書かれた本書の3つの章は、「本気のサッカー観戦」入門者にとって、とても参考になるものでした。
リオネルメッシやクリスティアーノロナウドが特別な才能を持っているのは誰の目にも明らかですが、マンチェスターシティのフォーデン、アーセナルのジェズスのような選手の良さは、この本を読むとさらに理解できるようになるのではないでしょうか。
さらに実践編として、森保JAPANの2つの試合も徹底解剖されています。この本を読んでから映像を見ると、試合がまた違った見え方をすると思います。
そして、もう一つ。ぜひ読んでいただきたいのが「おわりに」と題されたあとがきです。ここにはらいかーるとさんがブログを始めたきっかけやこれまでサッカーの分析を通じて経験されてきたことが少しだけ書かれています。
就職、結婚、子どもの誕生などのライフサイクルの変化に伴って自分の好きなことをする時間が無くなる。サッカー関係者あるあるだと書かれていますが、これはサッカーのことに限らず、身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。
自分の好きなこと、自分のやりたいことに時間も体力もお金も注ぎ込める無敵の状態に「制限」がかかる。ライフステージが変わること自体は必ずしも不幸なことではなく、むしろ幸せな出来事である場合が多いのですが、「やらなければいけないこと」に心血を注ぐあまり「やりたいこと」が疎かになってしまうのは、なかなかにストレスが溜まるものです。そのネガティブな気持ちをブログにぶつけて吐き出したらいかーるとさんはすごいというかおもしろいというか。なんにしてもバランスが重要ですよね。
少し脱線しましたが、本書はサッカーの見方の基本を習得したい方にぜひ手に取っていただきたい1冊です。本書を読んだ上で、改めてサッカーの試合を観ると勉強になるのではないでしょうか。
実際の試合を観てから、らいかーるとさんのブログを覗いてみるのも参考になるのでオススメです。その試合についての記事をらいかーるとさんが書いてくれるかどうかはわかりませんが。
らいかーるとさんが体験したような、サッカーの試合を観ることで蓄積された知識によって、いままで目に留めなかったプレイや景色が急に色を伴って現れるという現象。いつかそんな日が来ることを夢見ています。
なんだかボールが蹴りたくなってきました。