ぱぱハート

2児のパパの子育て日記。

【SPONSORED LINK】

『すてきな三人ぐみ』 彼らは本当に「すてき」なのか

きっとこの絵本の魅力は、様々な解釈ができるところ。

 

すてきな三にんぐみ」という絵本をご存知でしょうか。国際的なベストセラー絵本であり、数々の賞を受賞。青と黒の印象的な表紙を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。

 

すてきな三にんぐみ

 

 

  • 作 者  トミー=アンゲラー
  • 訳    今江祥智
  • 出版社  偕成社
  • 出版年  1699年
  • ページ数 38ページ
  • 対象年齢 3~5歳

 

 

※以下、ネタバレです。

 

 

 

3人のどろぼうたちたちは、夜な夜な馬車を襲撃、財宝を略奪します。ある夜、どろぼうたちがお宝の代わりに奪ったのは「みなし子」のティファニーちゃん。いじわるなおばさんのところに行く途中でどろぼうたちのアジトに連れてこられるのですが、どろぼうたちは彼女にふかふかのベッドを用意します。

ティファニーちゃんはどろぼうたちの貯めこんだお宝に興味津々。「これ、どうするの?」と問いかけます。

お宝をどうするつもりもなかったどろぼうたちは、捨て子やみなし子を集めることを決意。お城を買い取り、みんなで暮らし始めました。お城の子どもはどんどん増え、それぞれが成長してお城の周りに村を作り、3人のどろぼうたちを忘れないためにそっくりの塔を建てる。そんなおはなしです。

 

 

子どもたちのリアクション

 

4歳の次男は、「いいどろぼうたちなんだね」と話していました。お金を奪う「どろぼう」は悪いことだけれど、奪った財宝をかわいそうな子どもたちのために使う。そのおかげで子どもたちは幸せに暮らすことができ、どろぼうたちは塔を建てられるほど慕われる。冒頭のどろぼうの登場シーンやくらーい雰囲気に最初は少し怖がってもいましたが、彼らの優しさに安心した様子でした。人のものを盗るのはダメだけれど、本作のどろぼうたちはもう泥棒家業から引退しているじゃないかと。次男から見たこの物語は、更生した三にんぐみと子どもたちの幸せなお話。

 

一方で小学2年生の長男は、少し納得がいかない様子。子どもたちを救ったという点に関してはよいことをしたと思う。だけれど、それで「どろぼう」という行為が正当化されるわけではない。贖罪の物語ともとれるけれども、お金を奪われた人たちは最後まで救われることはない。

もし三にんぐみがティファニーちゃんに出会わなかったら、どろぼうたちはいつまでも悪事を続けていたのではないかという分析も、まさにそのとおりだなと感じました。

 

大人からみた「すてきな三にんぐみ

 

三にんぐみは、ティファニーちゃんをはじめ多くの子どもたちを救いました。彼らを保護し、快適な居場所を与えました。しかし、その元手となったのは強盗で奪った金銭です。三人のどろぼうたちの悪事を赦し「すてきな」と呼ぶことについて、疑問を抱かずにはいられません。

 

一方で気になるのが、捨て子やみなし子たち。三にんぐみは行き場のない子どもたちを集めるのですが、その数がとても多いのです。

「どっさりと」集めた子どもたちの住処に三にんぐみが選んだのは古い「お城」。そのスケールの大きさが、彼らがいかに大所帯であるかを物語っています。

それに加えて、お城の噂を聞きつけた人が彼らのもとに孤児を置き去りにしていくので、孤児たちはさらに増加。成長した後にお城の周りに「村」ができるほど、孤児たちの人数は膨れ上がるのです。

 

作者のトミー=アンゲラーは風刺画家としても知られています。本作では、行き場のない孤児たちが数多く溢れていることと、それを救うのが国や行政ではなく粗野な「どろぼう」であることを描くことで、社会や政治に対する痛烈な皮肉を伝えているのではないでしょうか。

 

さらに、これは深読みのし過ぎかもしれませんが、本作のイラストは特徴的な色使いがされています。墨を流したような黒と三にんぐみを描く青。この2色は表紙にも使われています。

もう一つ、印象的な使われ方をしているのが赤。序盤は「おおまさかり」などの恐怖の象徴に、後半では孤児たちの身に着けるマントや帽子の色に赤が使われています。

 

作者の出生地であるフランス。その国旗に使われる青・白・赤のトリコロールは自由・平等・友愛を意味していると言われています。その色のルーツになったのはフランス革命市民軍がつけていた帽章の青と赤、王政の白が由来なんだそうです。

本作で特徴的な使われている青と赤は「民衆」の色。政府を象徴する白は登場しないのです。この点にも、本作が行政や社会への風刺として描かれていることが表れていると思うのは考え過ぎでしょうか。

 

 

国や行政には救えない、あるいは救わない捨て子やみなし子たちに居場所を与えた三にんぐみ。強盗という罪が消えることは決してありませんが、その後の彼らの過ごし方で十分な償いをしていると言えるのかもしれません。

 

ティファニーちゃんに集めた財宝の使い道を聞かれた際に、三にんぐみは戸惑います。彼らはそれまで財宝を「どうするつもりもなかった」というのです。ではなぜ彼らはどろぼうなんてしていたのでしょうか。

動機がない分タチが悪いとも言えますが、短絡的でひょうきんな印象の三にんぐみは、どこか憎めないように思えるのです。

 

過去に犯罪を犯した前科者や、居場所のない孤児たち。その数は少ないに越したことがないのかもしれませんが、確実に存在する彼らが暖かな居場所を持ち、幸せに過ごすことができる。そんな社会であってほしいなと願っています。