『おれ、カエルやめるや』 子どものコンプレックスとどう向き合うべきか
自分のこと、好きですか?
人が持っていて自分が持っていないものは、なぜかとても輝いて見えるもの。それを欲しいと思う気持ちは、大人にも子どもにも等しくあるでしょう。
〇〇みたいになりたい。結局は無い物ねだりなのかもしれませんが、人を羨む気持ちを抑えることは容易ではありません。しかもそれは終わりの見えない欲求で、いつまでもどこまでも際限なく求め続けてしまいがちです。
違う誰かになりたい。自分ではない何かになりたい。しかし、その願いが叶うことは決してありません。
自分は自分。変えることも避けることもできないその事実をどう受け止めるか。思春期にありがちな悩みではありますが、なんとも難しく、人間臭い課題であったりもします。
オレ、カエルやめるや
表紙に描かれたカエルの子どもの「オレ、カエルやめるや」という衝撃的発言が、このえほんのタイトル。
カエルの子どもは、カエルでいることに嫌気がさし、もっとかわいくてふわふわした動物になりたいとお父さんに訴えます。
お父さんは、お前はカエル以外の動物にはなれないと諭すのですが、子ガエルには不満があるようで……
原題は『I DON’T WANT TO BE A FROG』。アメリカ生まれの、海の向こうで人気を博したえほんです。比較的新しい本でありながら、同シリーズの後作も生まれています。訳したのはお笑いコンビ、ラーメンズの小林賢太郎さん。タイトルの訳し方ひとつ取って見ても、言葉の使い方にさすがのセンスを感じます。生意気な子ガエルとお父さんとのコミカルなやり取りもリズミカルで、テンポよく読み聞かせをすることができます。
子ガエルが別の生き物になりたい理由は、カエルに「嫌なところ」があるから。カエルのこんなところが嫌だ、とその「嫌なところ」のない別の生き物になることを望みます。子ガエルは、カエルの様々な特徴にコンプレックスを抱き、別の生き物になることを望むようになったのです。
臆病だとか頑固だとかといった「内面」の短所は、思慮深いとか意志が強いだとかといった長所と表裏一体であったりします。一方で、顔の造形や手足の長さといった「外見」上のコンプレックスは、なかなか長所には昇華しにくいもの。
実際には、周りからはそれほど気にならなかったりするのですが、当人にとっては大問題です。自分でどう折り合いをつけていくか、というのはなんとも厄介な課題なのではないでしょうか。
完璧な人や生き物なんて存在しないのですから、短所があるのは当たり前。それを受け容れ、うまく付き合っていくことが理想的です。身体的なコンプレックスだって自分にしかない個性だと思えれば愛すべき特徴になるのでしょう。
ただ、頭ではわかっていても自分の短所を受け容れるというのはなかなか難しいものです。本作の子ガエルのように、この短所がなければな、と他者を羨んでしまう気持ちはよくわかります。
本作の子ガエルは最終的に、自分のコンプレックスにもよい点があるということ、自分は自分だという自然のルールには逆らえないことを知り、自らカエルになることを選択します。短所やコンプレックスも含めて自分であるということを諭され、カエルであることを受け容れます。
きっと、いままで嫌だと感じていた部分も含めて自分を丸ごと愛せるようになったのではないでしょうか。
子どもたちのリアクション
オレ、〇〇になることにするや。えほんの中でカエルの子どもがそう訴えるシーンを読みながら、「なれると思う?」と子どもたちに問いかけることで、親子でのコミュニケーションを取りながら読むことができました。
かわいく躍動感のあるイラストも、子どもたちを惹きつけているようでした。
長男が、自分の見た目が人と比べてどうなのか、ということを気にするようになったのは小学生になってからだと思います。身長や手足の長さは人と比べてどうなのか。目の大きさ、鼻の形はおかしくないか。「ぼくの顔ってどう?」と親に聞いてくるように なりました。お友達から「顔が変」などと残酷なことを言われ傷ついて帰ってきたこともありました。
そのたびにぼくたち夫婦は、君はとってもかわいいよと長男に伝え続けてきました。
一方で4歳の次男は、まだコンプレックスなどとは無縁の様子。むしろ「かわいい」と言われることに慣れ過ぎて、自分はかわいいんだ!と自信満々です。その自己肯定感も今後、いろいろな経験を経て変化していくのでしょうが、いまはまだ疑うことなく自分という存在に自信を持てています。
それなのに突然,ぼくは自分の顔があまり好きじゃないなんて言ってみたりもします。その発言が本心なのかはあやしいところですが,思うところはあるようです。
コンプレックスを持つのは大人も子どもも同じ。その苦しみもまた、等しくのしかかっているはずです。
子どもたちには、ありのままの自分を受け容れ、愛し、大事にできるようになってほしいと願っています。
本作の絵を担当したマイク・ボルトが巻頭に載せたコメント「エリへ。君は君のままで」。ぼくも子どもたちには、そのままの君たちでいいんだと、いまのままで十分君たちは素敵なんだと伝えていきたいなと思っています。
背表紙に書かれた、「キミはなにになる?」という問い。
いつか、えほんのカエルのように、子どもたちがぼくにポジティブな夢を語ってくれるような日が来るのを楽しみにしています。