ぱぱハート

2児のパパの子育て日記。

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絵本『きっさすなどーひー』 子どもたちが知らない公園の住人たち

お気に入りのランニングコースがあります。

 

家から歩いて1時間もかからない場所にあるサッカースタジアム。そこまで走って行って、スタジアムの周りをぐるぐる走り、クールダウンがてら歩いて帰る。それがお決まりのコースです。

スタジアムの周りはきれいに舗装されているし、赤信号に止められることもない。床に敷き詰められたタイルには100メートル毎に目印が表示されているので、ランニングをするのには絶好の場所なのです。

 

ぼくが走りに行くのは決まって、子どもが寝付いた後の夜22時前後。夏でも涼しく、人通りも少なくなった時間帯です。

 

そのスタジアムは2002年ワールドカップでも使われた大きな会場で、週末には何万人もの人が詰めかける場所です。今でこそ新型コロナウイルス感染症対策として観客数は限られていますが,コロナ禍以前の賑わいは活気に満ちたものでした。サッカーの試合がある日には、スタジアムの周りをユニフォーム姿の人が紙コップを片手に右へ左へと歩き回り、食べ物を売る屋台がズラッと並ぶ、そんな賑やかなお祭りのような光景をよく目にしました。

 

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そして,夜が更けるとスタジアムはまた違った姿を見せてくれます。人の影はまばらで、ぼくと同じように走っている人をちらほら見かける程度。近くを通る高速の車の音が聞こえ、たまにサックスを練習している人がいたりなんかして。控えめにライトアップされたスタジアムの周りは、他の空間から切り取られているかのような不思議な雰囲気を湛えており、静かな夜の憩いの場になっています。

 

普段見慣れている場所でも、時間帯が違えば全く異なる顔を見せてくれたりするものです。それはサッカースタジアムに限らず、他の場所でも同じなのでしょう。

 

例えば、公園。子どもとともに何度も通っている公園も、夜になれば、子どもたちの声が響き渡る日中とはまた違った空間へと変貌しています。

 

もしかしたらそこには、ぼくたちが知らない生き物たちの、知られざる世界があるかもしれません。そんな空想をするのも、ちょっと楽しくないですか。

 

 

きっさすなどーひー

 

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  • 作 者  尾崎玄一郎,尾崎由紀奈
  • 出版社  福音館書店
  • 出版年  2019年
  • ページ数 32ページ
  • 対象年齢 3~6歳
  • 月刊予約絵本「こどものとも」 2019年8月号

 

「きっさ すなどーひーが読みたい。」
当時5歳の長男に初めてそう言われたとき、最初は何かの呪文かと思いました。「キッサスナドウヒ?」、「キッサス??」

 

「きっさ」は「喫茶」。「すなどーひー」は砂場の水分を使って作られた黒っぽい液体。コーヒーのような飲み物のようです。

 

子どもたちが帰ったあと、夜の公園では、奇妙な生き物「つちくれ」たちが活動を始めます。

つちくれですよ、つちくれ。土のかたまり。ネーミングセンス,最高じゃないですか。

顔も動きも愛らしい姿で描かれているのですが、彼らが土の中からボコボコと現れるシーンは少し不気味。ティムバートンの映画にでも出てきそうな、かわいいだけではない奇妙な雰囲気に包まれた、不思議な生き物たちです。かわいいイラストで描かれる表情豊かなつちくれたちは,この絵本の大きな魅力です。

 

そんな彼らの憩いの場が「きっさ すなどーひー」です。

子どもたちが砂場で水を使ったり、雨が降ったりしたとき、その水分は砂場の地下深くへと染み込んでいきます。そこで水分は、美味しいすなどーひーに姿を変えるのです。つちくれたちは、そのすなどーひーを目当てに喫茶すなどーひーに集まり、楽しいひとときを過ごします。

 

そんなある日、夏の日照りが公園を襲います。水分が不足し、すなどーひーも枯渇。どーひータンクも空になってしまいます。喫茶すなどーひーのマスターは、つちくれたちにすなどーひーを振る舞うことができなくなってしまうのです。

愉しみを失ってしまったつちくれたちは、また美味しいすなどーひーを楽しむために、工夫をこらします。

 

きっさすなどーひーの世界は、子どもたちにとって近しい場所を舞台にしています。しかし,そこにあるのは子どもたちが今まで見たことがない世界です。
公園という、子どもたちにとって馴染みの深い場所。でも子どもたちは、夜の公園の姿を知りません。つちくれたちが活動していることは元より、砂場の地下深くにきっさ すなどーひーが存在していることも知りません。いつも行っている公園の地下にはどんな世界があるのか。大きな木の根の下や砂場の深いところに埋まっているものが描かれているシーンも、思わず背景にあるストーリーを考えてしまいます。子どもの想像は無限に広がるのではないしょうか。

 

すなどーひーという飲み物。そのモデルがコーヒーであることは子どもでも想像がつくでしょう。大人たちはいつも美味しそうに飲んでいるのに、苦いからという理由で子どもの自分には飲ませてもらえないもの。そんな、子どもから見て馴染み深く、少し憧れるような、けれども縁遠い飲み物が、すなどーひーとして登場します。

 

自分たちの近くにありながら、手の届かない、あるいは自分たちの世界のすぐ近くにあるのに、決して交わらない存在。それがつちくれたちの世界であり、すなどーひーという飲み物であるように思います。

 

 

長男は5歳の時、トイストーリーの世界のように自分が寝た後におもちゃたちが活動している可能性はゼロではないと考えていたようです。つちくれたちの存在も,まったくのフィクションだとは捉えていなかったかもしれません。

存在しないことを証明することはできません。ぼくたちが目を離したすきにぼくたちの死角で動き回り,ぼくたちが振り返ると同時にもとの姿に戻る。おもちゃやつちくれたちがそんな風に動いていたとしたら。ぼくたちは決して目にすることはできないけれど,そんな世界が存在していたら。そんな妄想をすることは,少し幼稚でしょうか。

 

つちくれたちがすなどーひーを飲みながら夜中に語らうのは、日中、公園で遊んでいた子どもたちのこと。つちくれたちに見守られている可能性を感じながら、長男は明日もお昼の公園で遊ぶのでしょう。

 

子どもたちのリアクション

長男のお気に入りのペ-ジは、花火の水で作ったすなどーひーを飲んだつちくれたちのリアクション。

人気絵本「パンどろぼう」にもこんなシーンがありましたよ。そりゃそうでしょ,花火だもん。色,みどりだもん。こっちを見るな。

 

3歳の次男も,一人ひとり姿の違うつちくれたちの動きに,気持ち悪い,気持ち悪い!と手を叩きながら喜んでいました。

 

喫茶「すなどーひー」店内のポスターや調度品など,イラストは細部まで書き込まれており,子どもたちの興味を惹く仕掛けがたくさん。マスターが穴から少し顔を出し,こちらを見ている様子が描かれた表紙だけで楽しくなり,何度も何度も繰り返し読んでいました。

 

親としては,子どもたちがすなどーひー作りに夢中にならないことを祈るばかりです。

 

 

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